「悲運の系譜」〜E15ET、CA16DE、SR16VE〜 (HB12糊) 年若い日産党なら、これらのエンジン名を見ても、スペックを思い出せないかもしれない 今日でこそ、某巨大掲示板の愛好スレでさえ「おやぢ車」と叩かれるサニーだが FFも代々、若者の声に応えてホットモデルをラインナップさせては、MCで廃止を繰り返してきた べつに、性能で劣った訳ではない、弱点があった訳でもない 「技術の日産」の名に恥じぬ、その時々で最高の性能が与えられていた ただ、日産技術陣の本能、それこそ今風に言えば「DNA」として トルクを伴わせ、シャシ性能を高めたばかりに 評論家が「官能的でない」 雨上がりには必ず電柱に刺さっていたヘロヘロ車体の某社や 豆腐程度の脳味噌向け漫画で伝説を得た某社に イメージで破れただけである かくして、3代にわたり非業のモデルライフを終えた稀少車たち 幸運にもハンドルを握る者は、その価値を知りつつも「走り」の表情は見せはしない 愛する嫁の呵責ない批判は、中村主水のように耐えて聞き流し 同僚に車を聞かれると「サニーですよ」と弱々しい苦笑を浮かべる 迫り来る部品供給の不安。夜空を見上げ、 仏 の慈悲を願う フラソスジソ たとえ1300でも1500でも、走りは日産車 サニー乗りは皆、運転が好きだ 誰もが、山に街道に高速に、車と対話する「自分の道」を持っている 愉悦のひとときが破られた ミラーにカエル面が広がり、ライトをまたたかせる 甲高いエキゾーストノート、低くヒョコヒョコした動き 踏んでも緩めても、車間を詰めて、その咆哮を一層高くする 「やれやれ」。煙草を消し、改めて背筋を伸ばして、安全を確認 解き放たれた力は(替えたばかりのブーツを貫き)鬱憤を、怨念をアスファルトに叩き付けた 前を塞いでいた"セダン"が、突然飛ばしだした 「おやぢ必死だな」。コクコクとシフトを決めるとタコの針が躍るが、間隔は開く 「アハハ。車壊しても知らねぇぞ」。さらに右足に力を込めると、サウンドは一段、音程を変える 「なんだ?この車」。疑問が驚きに、恐怖に変わった 次々と現れるコーナーを規則正しくロールしながら、信じられない速さで脱出する 四角いトランクが左右に揺れる 子供の頃見た刑事ドラマが、なぜか脳裏をよぎった 本気でセンターを割ったライン取りでも、差が縮まらない 狂ったようにクラクションを鳴らしエスティマが耳の横をかすめていった 「うそだろ」 もはや考える余裕はない、低く鋭くヘアピンへ飛び込んだ 激しいGを感じながら、クリッピングを探ろうとした瞬間。「うわっ」 ガードレールが白く迫り、夢中で立て直すと、「おやぢ」は遠くなっていた 「また、やってしまった」 ギアをトップに入れて、窓枠に腕を乗せ、いつもの走りに 木漏れ日が小刻みにボンネットを照らす 麓の小学校の信号で、さっきの若者が真横につけてきた 凄まじいアイドリング。「九州人には聞かせられんな」 若者は深い椅子とケージの中から身をよじるようにして、こちらを覗き込んでいる 無視して煙草を一服 「アホンダラが」